事業報告Business Report

(委託元:経済産業省)

調査概要

世界の海洋石油・天然ガスの探鉱・開発は年々大水深へと向かっており、国内に目を向ければ、近年、メタンハイドレートの海洋産出試験、佐渡南西沖での基礎試錐「上越海丘」と、日本近海においても水深1,000mを超える大水深海域での探鉱・開発が活発化していく兆しがあった。しかし一方で、平成22年4月に起きたメキシコ湾原油流出事故は、大水深海洋開発は一歩間違えば原油の漏洩・流出により周辺の自然環境や社会生活などに甚大な影響を及ぼすことになるという大きな教訓を残した。このような状況を踏まえ、本調査は3ヵ年計画で国内外における大水深海洋石油天然ガス開発に対するリスク評価、保安対策および環境保全の最新動向及び法規制動向についての調査、今後取り組むべき対策や保安技術開発のあり方について検討した。

調査内容

1.大水深開発先行国と日本の鉱山保安法令等の比較
2.大水深開発保安対策技術の検討
3.大水深開発環境保全対策の検討

調査対象国と規制機関
  • 米国:海洋エネルギー管理局BOEM
  • ノルウェー:石油安全局PSA
  • 英国(U.K.):エネルギー気候変動省DECC,英国安全衛生庁UKHSE
  • オーストラリア:国家海洋石油安全環境管理庁NOPSEMA
  • ブラジル:国家石油庁ANP,環境・再生可能天然資源院IBAMA

世界の大水深石石油・可燃性天然ガスフィールド
(JOGMEC 海底油田の世界的現状(http://oilgas-info.jogmec.go.jp/pdf/3/3652/1008_out_offshore_oilfield_trend.pdf)より作成)



1. 大水深開発先行国と日本の鉱山保安法令等の比較

1)メキシコ湾におけるマコンド事故後の各国の動向
  • 米国ではメキシコ湾における事故後に、オーストラリアでもメキシコ湾における事故の前年に起きた暴噴事故があり、規制機関の再編と大幅な保安対策の強化が図られた。一方、英国およびノルウェーでは、性能規定(goal-setting型,performance-based)の規制のもとで規則等の変更は行われなかった。
  • 法律、規則、規格、ガイドライン等(民間作成を含む)の見直し内容は以下の通り整理できる。
    • 規則等の追加や米国API規格やノルウェーNORSOK規格等の改訂により、BOPやセメンチングによる坑井健全性の確認についての規制が強化された。
    • 油濁事故発生への対処として、キャッピングスタックを主とする対応システムの要求が追加された。
2)大水深開発先行国の規制体制
  • HSE規制機関が機器の設置、供用前から廃止までチェックする体制が構築されている。
  • goal-setting型の規制を、規制機関や業界団体が作成する詳細なガイドラインと業界規格が補完している。
  • 米国でのリスクマネジメントシステム(SEMS)の導入義務付けにより、リスクマネジメントシステムに関しては米国、ノルウェー、英国、オーストラリア、ブラジルと調査した5カ国すべてに導入された。
  • 世界的に実績が積まれた技術が米国API規格やノルウェーNORSOK規格等に取り入れられグローバルスタンダード化し、技術の進歩や事故を契機とした業界の安全対策見直し等により随時改定されている。
3)日本の鉱山保安法
  • 鉱業権者にリスクマネジメント導入を義務付け、「事業者自らリスク管理を行う」ことで「要求される内容を満足させることを義務付ける」ことを基本的な考え方とし、大水深開発先行国と基本的な考え方は一致している。
  • 例えばBOP等の機器について、保安の確保上重要な「特定施設」として「石油鉱山における掘削施設」、「石油鉱山における海洋掘採施設」の一部として届出させ、設置段階から規制している。


2.大水深開発保安対策技術の検討

1)各国の気象海象と日本の気象海象
  • 国内の排他的経済水域のうち、石油・可燃性天然ガス胎胚の可能性が高いと考えられる3地域の気象海象の特徴は以下のとおり。
  • 新潟県沖~秋田県沖:海流(対馬暖流)の流速は0.75m/s(1.5ノット)程度。水深約300mから下には水温0-1℃程度の「日本海固有水」が存在。台風の影響は少ないが、急速に発達する低気圧がある。
  • 岩手県沖~北海道東部沖:海流の流速は最大0.75m/s(1.5ノット)程度であるが、年間を通して月の最大風速は20m/sを超え、特に冬季を中心として急速に発達する低気圧により台風なみの強風が記録される。
  • 静岡県沖~和歌山県沖:沖合いを最大流速が2m/s(4ノット)以上にもなる黒潮が流れており、年により通常期や大蛇行期等流れる場所を変えることが特徴。また台風の通過域にもなりその影響に留意が必要。
2)保安上の留意点
  • 我が国の大水深に特有なもの:強い海流,台風他低気圧による荒天,海底面付近の低温環境
  • 大水深一般に留意すべきもの:浅部軟弱層,複雑な地層条件,海底面に設置する装置・設備
3)我が国の大水深開発における保安対策技術
  • 我が国の大水深海域の気象・海象状況は非常に厳しいものであることが明らかになったが、大水深開発先行国にはさらに厳しい風・波・海流条件で開発が行われている海域がある。
  • 探査、掘削、開発・生産、廃止の各事業段階における保安上の留意点に係る危険要因を抽出し、保安対策・技術を整理した結果、以下のような保安対策・技術が参考になる。
  • 構造物の設計基準、作業限界設定指針等⇒北海、ノルウェー海、メキシコ湾
  • 台風対策⇒メキシコ湾、オーストラリア北西部
  • 海底面付近の低温環境⇒世界の大水深開発海域


3.大水深開発環境保全対策の検討

1)各国の環境影響評価に関する規制制度
  • 海洋における石油・可燃性天然ガス事業に関しては、一般的な環境影響評価の制度または石油・可燃性天然ガス開発の事業を対象とした制度のいずれかにより法律に基づく環境影響評価が求められ、審査は海洋における石油・可燃性天然ガス事業を所管する省庁と環境省のいずれかにより行われる。
  • 環境影響評価は、米国では規制機関、その他の国では事業者が実施する。
  • 環境影響評価の手順、環境影響評価を実施する項目、予測・評価の手法等について、どのような内容が必要であるかの記載はあるが、具体的な評価項目や項目ごとの予測、評価の手法について規定されていない。
  • 探査、掘削、開発・生産、廃止の各事業段階のいずれの事業段階で環境影響評価が必要であるかは、開発・生産段階で必要である点が共通する他は国により異なる。
  • 大水深開発先行国5ヶ国およびその他5ヶ国(インドネシア,マレーシア,南アフリカ,ガーナ,ナイジェリア)の海洋における石油天然ガス開発に係る環境影響評価の制度において、水深による区分が設けられていたのはブラジルの地震探査許可および掘削許可に関してのみである。
2)環境影響評価書等の内容
  • 大水深開発先行国5ヶ国における環境影響評価書等36事例を収集調査し、探査、掘削、開発・生産、廃止の各事業段階で「どのような項目」を「どのように評価」しているか、環境保全対策として何を重要視しているか等の特徴を抽出した結果、事業の内容を正確に把握し発生する「影響要因」を可能な限り特定するとともに、事業実施個所の現況調査により希少な生物、保護種の存在などの「環境要素」を正確に把握した上で、それらを組み合わせて選定することが一般的であった。
  • 大気や水質等については自国国内基準の遵守と合わせてMARPOL条約のような国際的条約を遵守し、漁業への配慮など社会環境影響についても考慮されている。


調査結果まとめ

1.大水深開発先行国と日本の鉱山保安法令等の比較

日本の鉱山保安法令等による規制制度は大水深開発先行国における性能規定と同様に大水深石油天然ガス開発に対応可能

2.大水深開発保安対策技術の検討

日本近海の気象海象は大水深開発先行国と比較して格段に厳しい条件ではなく、大水深開発先行国の保安対策技術等は日本近海で適用可能

3.大水深開発環境保全対策の検討

それぞれの国周辺海域の利用状況、保護が必要な生物などにより決められており、日本近海でも事業箇所周辺の調査が重要








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