事業報告Business Report

(委託元:経済産業省)

調査概要

2018年度に経済産業省より委託を受けて実施した「平成30年度石油・ガス供給等に係る保安対策調査等事業(海洋における石油・天然ガス開発に係る保安調査)」(以下、昨年度調査)に引き続き、以下を実施した。
1.保安対策の最新動向
廃止関連(プラットフォーム等施設の撤去および廃坑関連)についての保安対策の最新動向を重点的調査項目とした。その他の昨年度調査の調査項目については、米国において今年度になって発行された「暴噴防止システムおよびウェルコントロール見直し規則」による昨年度調査内容からの変更点を中心に、主に米国における保安規制に係る法規およびガイドライン類の見直し内容を調査した。英国におけるセーフティーケース関連の規則改訂やガイドラインについて、調査項目についての関連内容がある場合には追記した。

2.環境保全対策の最新動向
英国の環境影響評価書6事例、オーストラリアの環境影響評価書1事例について、現況調査内容、予測手法、事業実施中のモニタリング、ステークホルダーの選定・対応、事業終了後の取り扱いの5つの視点から分析した。加えて、英国規制機関及びオペレーター会社を対象にヒアリング調査を実施した。また、これらとは別に、英国の環境管理の全体像の把握のために手続きやスキームについても整理を行った。得られた結果は、昨年度調査の分析結果(英国・廃止6件、オーストラリア1件)と合わせて取りまとめた。

主な調査結果

1.保安対策の最新動向
(1) 廃止関連(2項目)
1)プラットフォーム等施設の撤去
・固定式プラットフォームの撤去については、米国、英国ともほぼ同様であり、上載設備の撤去は、陸上への撤去が義務付けられており、下部構造は例外規定があるものの撤去が原則となっていた。
・パイプラインについては事例ごとに判断することとなっており、事前に監督官庁等との協議が求められていた。
・プラットフォームの撤去実績は、英国22基、米国420基であった。またパイプラインの撤去実績については英国においては140本であり、米国においては関係各所との協議の結果、ほとんどのパイプラインが残置されているようである。
2)廃坑関連
・英国のOil & Gas UKが発行している廃坑についてのガイドラインと米国BSEEの定めている廃坑基準について調査した。
・英国の Oil & Gas UK における廃坑のガイドラインでは、廃坑時に設置する必要のあるバリヤーの機能、必要数、設置個所等が決められており、その内容を取り纏めた。
・米国の BSEEの定めている廃坑基準では、パッカーとブリッジプラグに関してAPI Spec 11D1に準拠すること、坑井条件ごとのセメントプラグ長、坑口装置等の撤去深さ等を規定している。

(2) 坑井制御と坑井健全性に関するもの(4項目)
1) BOPおよびモニタリング等坑井健全性
・「暴噴防止システムおよびウェルコントロール見直し規則」による改正について、取り入れた規格の内容、BOPを扱う作業の要件、BOP構成部材の要件を取りまとめた。
・BOPについては改正された規制とAPI規格に則ってオペレーターとコントラクターが運営しており、新たな動きは生じていないことを確認した。
・坑井健全性については、英国における操業中と廃坑後の健全性の確認方法についてヒアリングにより調査した。また米国において多数の漏洩があるとの報告があることが分かった。
2)セメンチング関連
・関連する規制、API規格については改定がなされていないことがわかった。
3)ケーシングデザイン関連
・新しい設計手法について調査したところ、特に新しい設計手法は紹介されていないことがわかった。

(3) 機器、装置に関するもの(6項目)
1) キャッピングスタックシステム関連
・「暴噴防止システムおよびウェルコントロール規則」により2016年4月に初めて規定された内容であったが、「暴噴防止システムおよびウェルコントロール見直し規則」により修正された条文はみられないことが分かった。
・関連するAPI規格は改正されていないことがわかった。また、IOGPから、直近では2020年2月にも設計および操作性、事故対応計画についてガイドライン類が発行されていることがわかった。
2) ROV関連
・「暴噴防止システムおよびウェルコントロール見直し規則」による改正について、ROVに適合が求められるBOPの操作に関するAPI規格の内容を取りまとめた。
・2019年に関係APIが改訂され、海底面に設置しROVの動力補給、データ回収等を行うなどROVの運用性を向上させるためのドックとAUVに関する内容が追加されていることが分かった。またIMCAから2016年5月発行のGuidance for the safe and efficient operation of remotely operated vehiclesをはじめ多くのガイダンスが発行され、随時更新されていることがわかった。
3)ダイナミックポジショニング関連
・「石油ガス生産安全システム規則」により新たにAPI RP2SMへの適合が追加され、「暴噴防止システムおよびウェルコントロール見直し規則」により緊急離脱シークエンス(EDS)の要求が追加されたことがわかった。
4)海底面に設置する装置・設備関連
・「暴噴防止システムおよびウェルコントロール見直し規則」により、大水深開発計画書に関して、設計詳細情報の提供義務の見直し、パイプラインの認証条件の見直し等一部改正されたことがわかった。
・また海底生産施設の設計及び運転に関するAPI 17Aについて取りまとめを行った。本ガイドラインでは、設置後の変更・改造が比較的困難である海底生産施設については、設計時に将来の予測される状況までを考慮し、流動解析や防食をふくめた補修計画を立案すること、複数機器を接続した状態での圧力試験や、定期的な動作試験による施設健全性の確保などが規定されていることが分かった。
5)浮体式施設及び移動式施設関連
・「暴噴防止システムおよびウェルコントロール見直し規則」による改正内容に加え、「石油ガス生産安全システム規則」によりAPI RP14Jへの適合およびタレット装備についての要件が追加されていることが分かった。
6)着底定式施設及び固定式施設関連
・「石油ガス生産安全システム規則」によりAPI RP14Jへの適合が追加されたことが分かった。

(4) 作業に関するもの(1項目)
1)緊急時計画関連
・「暴噴防止システムおよびウェルコントロール見直し規則」による変更はなく、2016年9月の「北極外縁大陸棚の試掘要件規則」による変更以降は関連条文に修正点はないことが分かった。

2.環境保全対策の最新動向
(1) 現況調査
・今年度調査分の全7事例で、環境の現況把握のために少なくとも1つの項目で現地調査が実施されていた。昨年度調査の結果も合わせ、事業段階を問わず、「底質」と「底生生物」は最低限の現地調査項目であると推察されたが、試探掘及び開発生産段階においては廃止段階と比較してより多くの生物/生態系項目を現地調査対象としている傾向があった。
・規制機関へのヒアリングでは、現地調査の要否及び実施内容については規制機関が当該サイトの既存データの量・質に基づいて指導を行うため、明確な判断基準は存在しないことが判明した。
・文献調査は昨年度調査に引き続きすべての事例で行われていた。文献調査には、公的機関が発行・管理する充実した資料及びデータベースが多くの事例で使われていた。
・ヒアリングでは、英国のオペレーター会社は互いに協力的であり、データの共有が行われることも明らかになった。

(2) 予測手法
・予測手法については、騒音、カッティングス拡散、事故時の油流出予測に係るモデル計算を実施する傾向があり、海底擾乱及び大気への放出については負荷量の算出で影響を予測する傾向があった。段階間で予測手法が異なる予測項目は無かった。
・モデル計算のツールとして、カッティングス拡散予測にはDREAM/Partrack、事故時の油拡散予測にはOSCAR、OILMAPが使用される傾向があった。
・規制機関へのヒアリングでは、規制機関がツールを指定することは無く、使用したモデルの妥当性の説明を事業者へ求めることも明らかになった。

(3) 事業実施中のモニタリング
・事業実施中に行われる環境モニタリングについては、開発生産段階で排水・排ガスに伴うモニタリングが実施されるほかは特段の傾向はみられなかった。
・オーストラリアでは排出に加えて生物や堆積物などの環境要素のモニタリングも記載されていた。
・規制機関へのヒアリングでは、英国において環境モニタリングは法的要求事項ではないことも示された。

(4) ステークホルダー
・ステークホルダーの特定については、英国・オーストラリアいずれの場合でも、選定判断基準などの直接的な情報は得られなかった。しかし、英国では開発段階を問わず、BEIS/OPRED、JNCC、Marine Scotland、Scottish Fishermen's Federationといった規制機関・保全機関・漁業関連機関とはコンサルテーションを行っている傾向があった。また、廃止段階は試探掘及び開発生産段階と比較してミーティングを行う漁業関係機関が多岐にわたる傾向も見られた。
・規制機関へのヒアリングでは、BEISからも事業実施海域に応じて関与すべき組織を指導することが確認された。

(5) 事業終了後
・事業終了後のモニタリングについては、試探掘後及び開発生産段階後に残置物が無いことの確認、開発生産後に残置物に加えて「底質」と「底生生物」のモニタリングを実施する傾向が確認された。
・規制機関へのヒアリングでは、事業終了後は必ずモニタリングをすること、特に規制機関からは残置物の確認を指導することが確認された。

(6) 環境管理の全体像
・英国の海洋石油・天然ガス開発に係る環境管理の全体像として、環境影響評価のほか、化学物質使用許可、排ガスに係る汚染防止管理許可、油分排出許可、野生動植物の攪乱ライセンス、航行攪乱防止のための設置ライセンス等の環境管理に係る手続きが体系化されていることが確認された。

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