(委託元:経済産業省)

調査概要

2020年度に経済産業省より委託を受けて実施した「令和3年度石油・ガス供給等に係る保安対策調査等事業(石油・天然ガス開発に係る保安調査)」(以下、昨年度調査)に引き続き、以下を実施した。

1.自然災害に関する保安対策の動向調査
米国において激甚化する自然災害へ対応するために実施されている対策、保安規制の変更、気象海象条件の見直し等のガイドラインの更新など最新の動向について文献調査を実施し、我が国の保安規制に導入する場合の課題について検討した。

2.最新技術の導入に関する保安対策の動向調査
開発先進国(米国、欧州、豪州)において、保安対策へ導入されている、または開発され実用化の段階にある、AI・IoT等を活用したデジタル技術の最新動向について文献調査を実施し、鉱山保安法その他の保安上の関係法令等の規制措置への適合性等、我が国において導入する場合の課題について整理した。

主な調査結果

1.米国における自然災害に関する保安対策の動向調査

(1)重大ハリケーンの襲来、甚大な被害の発生
米国南西部に位置するメキシコ湾及び沿岸地域は季節的なハリケーンの発生・進路に当たり、年々過酷化する重大ハリケーンの襲来による同地域の石油・天然ガス開発設備、生産施設への被害の防止と共に、生産活動、エネルギー供給への影響、障害に対処した開発、生産設備、関連インフラの強靭化、さらに従業員の安全管理に係る対応計画の強化に向けた対策が継続的に進められている。

(2)所管行政機関と重大ハリケーン対応指針
米国政府は2011年発行の大統領政策令にて自然災害を含む国家の安全保障に最大のリスク、脅威に対する備えとして連邦準備ゴール(National Preparedness Goal)「予防、防御、軽減、対応、復旧」を定め、その実現のための関連省庁からなる枠組み、管理システムを構築している。そして災害関連の所轄機関である連邦緊急事態管理庁(FEMA)は的確なハリケーン予測の充実を含む対応計画指針を定めている。また、エネルギー保障を所轄するエネルギー省(DOE)はハリケーンを含む自然災害への石油ガス業界の対応策として、老朽化した既存の生産施設及び供給インフラの強靭化と被害からの回復の重要性を挙げ、緊急時への備えと災害からの事業継続計画の強化を示している。

(3)行政機関によるハリケーン対応指針、通達の発行
米国内務省(DOI)傘下の安全環境執行局(BSEE)海洋の石油・ガス事業者や活動を監督しており、石油・ガス生産施設の設計と運用に関する規制とガイダンス及びハリケーン通過時の石油・ガス生産施設等の対策及び影響、被害等の報告義務を定め、各事業者に対し通達(Notices to Lessees: NTL)を発行している。

(4)業界による自主的な安全対策の強化
米国の業界団体であるAPIはハリケーン海象条件の変遷動向に基づく海洋構造物等の関連規格、ガイドラインの整備、更新を進めている。そして、近年の重大ハリケーンによる関連海洋生産施設等への被害状況から、海洋構造物の設計基準となる気象、海象条件の再現期間(回帰年数)、また着底式に加え新たに浮体構造物の構造、さらに係留システムの健全性に関する新たなガイドラインを発行している。

(5)気象、ハリケーンの情報の収集、公開
国立海洋大気庁(NOAA)は国立ハリケーンセンターを設置し、年間を通して米国全土及び海洋の気象、海象と共にハリケーンの進路予測、強度などの情報を発信し、併せて対象地域社会のハリケーンへの備え、ハリケーンの通過後の復旧に関するガイドラインを発行している。

(6)企業による事前の緊急対応計画の整理、実施
ハリケーンの進路に立地する生産施設(企業)では、事前にハリケーンの接近時のリスクを想定し、ハリケーン情報の収集、気象、海象モニタリングとリスク評価に基づく段階的な生産調整と生産停止手順を定め、状況に応じた人員の退避を含む緊急対応計画(HURREVAC)を策定し、人員の安全の確保が図られている。なお、ハリケーン対応計画には平時における机上の訓練、プールにおける模擬救急演習が含まれる。

2.最新技術の導入に関する保安対策の動向調査

(1)石油ガス業界におけるデジタル技術の導入
石油ガス業界では、メジャーをはじめとし各石油会社は操業費用の節約、機器故障の予測、油ガス生産性の向上、効率的な資産管理の実現を目的とし、「Big Data to Smart Data」「Lower for Longer」を合言葉により最適化、効率化を進める方法を模索し、積極的AI・IoT技術を導入していた。導入されているデジタル技術の事例、技術を分類整理し、Connected Worker技術、Robot監視技術、AUVについて事例調査を実施した。

(2)国内導入時の課題
国内導入時の課題として、電子機器、電気製品であることから、電気機器の防爆に関する規定について調査を実施した。
一般的な防爆規定の考え方の基本は「通常運転時」をDefaultとして設計し、換気条件が機器のタイプと防爆区域の決定に大きく影響することに特徴がある。一方、従来の石油鉱山における鉱山保安法の考え方はこれとは異なり、危険区域と距離をはっきりと決めていてむしろ異常時に対処するものであると言える。一般的な防爆規定と鉱山保安法の考え方は、前提条件が全く異なっていることに注意が必要である。電気機器は一旦設置した後に大幅に入れ替えることは難しいことから、機器の選定は慎重に実施するべきで、こういった特徴を十分に理解する必要がある。防爆に関しては、今後API規格にある防爆関連の考え方を精査し、整理する必要がある。

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