事業報告Business Report

「海底石油生産装置」とは
 海底下にある油田(ガス田を含む)からの生産は、プラットフォーム(P/F)と呼ばれる構造物を海底から立ち上げ、その上に必要な生産装置等を設置して生産を行うのが一般的でした。これに対して、これらの生産装置等を海底に設置して、生産を行うものを「海底石油生産装置」と呼んでいます。この装置を採用すると既存のP/Fの周辺にある小規模油田の開発が可能になること、またP/Fの建設コストは水深に比例して指数的に増加するがこれを抑えられることから初期投資を少なくすることができること、またP/Fの建設が要らないことから早期に生産が開始できるなどのメリットがあります。現在、世界で千数百の実績があります。

海底石油生産装置と保護構造物のイメージ図
海底石油生産装置と保護構造物のイメージ図

調査研究の概要
 本調査研究は、平成12年度から平成15年度までの4年間に亘って実施いたしました。
我が国では、海底石油生産装置の導入の実績がありませんが、既存海洋油田の周辺での開発に向け検討がなされています。一方、我が国近海では、トロール漁業など活発な漁業活動が行われています。開発に際しては、漁業に対する影響がないように留意する必要があります。漁業の障害とならず共存していくためには、海底生産装置への保護構造物の設置が有効となります。
保護構造物は、トロール漁業に使われる魚網等に関して問題を起こさない形状であるなどの要件を満たす必要がありますので、本調査研究ではその安全性確認実験を行いました。また、ROV(Remotely Operated Vehicle)を使用して行う海底石油生産装置のIMR(保守・点検・補修)作業が保護構造物が設置された場合にも、安全に実施できることが重要なポイントとなりますので、その検証も試みました。更に、ROVを使用して行うIMR作業の手順や安全策について、海外の事例調査や実験等を通じて得た知見をベースに、標準的な作業手順書をまとめました。
一方、保護構造物が設置された場合の海洋環境への影響、取り分け漁礁効果に焦点を当てて調査研究も行いました。

成果の概要
保護構造物の基本設計の確立
   海底石油生産装置を、底びき網漁業から保護するためには、漁具を円滑に通過させるための機能であるオーバートローラブルな保護構造物の設置が必要ですが、実証実験により、漁業活動の安全性を確保できる保護構造物の基本設計を確立できました。
ROVを使用して行うIMR作業の安全性の確認
   保護構造物が設置されると、海底石油生産装置に対するROVを使用して行うIMR作業に障害になり可能性があるが、最適な設計により、最小化された保護構造物内部で安全にIMR作業が可能になります。これについては、実物スケールの部分模型を製作し、海中実験により安全性が確認されました。
ROVを使用して行うIMR作業の標準作業手順書の作成
   保護構造物を有する海底石油生産装置に対する、ROVを使用して行う代表的IMR作業の標準作業手順書をまとめました。
保護構造物が設置された場合の漁礁効果の評価
   保護構造物が設置された場合、周辺の流況と堆積物の分布が変化し、それに伴う底生生物(餌)の増加が見られることを、構築した数値モデルを使った実海域をケーススタディとしたシミュレーションにより認められましたので、漁礁効果を示すことができたと判断しています。
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