(委託元:経済産業省)

調査概要

2019年度に経済産業省より委託を受けて実施した「令和元年度石油・ガス供給等に係る保安対策調査等事業(海洋における石油・天然ガス開発に係る保安調査)」(以下、昨年度調査)に引き続き、以下を実施した。

1.保安対策の最新動向
昨年度調査と同じ調査項目10項目に、「着底式施設及び固定式施設関連」及び「ケーシングデザイン関連」を加え、閉山(廃坑、プラットフォーム等施設撤去等)時の対策については、廃坑とプラットフォームの2項目に分け、以下の13項目とした。また、近年の台風・ハリケーンの強大化等の自然災害の激甚化に対処するために行われた規則、規格類の変更等についても調査し、「着底式施設及び固定式施設関連」に含めた。
①プラットフォーム等施設の撤去及び廃坑関連(2項目)
・ プラットフォーム等施設の撤去, 廃坑関連
②坑井制御と坑井健全性に関するもの(4項目)
・ BOP, セメンチング, モニタリング等坑井健全性, ケーシングデザイン関連
③機器、装置に関するもの(6項目)
・ キャッピングスタックシステム関連, ROV関連, ダイナミックポジショニング関連, 海底面に設置する装置・設備関連,浮体式施設及び移動式施設関連,着定式施設及び固定式施設関連
④作業に関するもの(1項目)
・ 緊急時計画関連

2.鉱害防止対策の最新動向
昨年度までの調査で、英国の廃止事例が他の事業段階の事例よりも数が多く、事業段階間の比較に事例数の影響が懸念されたため、今年度の調査では新たに試探掘2件、開発生産2件を加え、累計で試探掘5件、開発生産5件、廃止6件とし事業段階ごとの数を同等として比較した。現況調査手法、ステークホルダーとの調整等、開発先進国において廃止に際し求められる環境影響評価の内容及び手続等について環境影響評価書の記載内容を確認し、各国規制法令の内容、規制当局及び関連機関並びに民間等におけるガイドライン類の内容、官民の役割分担及び許認可に必要な手続等に関する2016年以降の変更について調査し、内容を更新した。

主な調査結果

平成30年度から令和2年度までの3年間の調査を通じ、現状の我が国における保安及び鉱害防止規制の課題について、海外と比較し、規制適用の課題等と考えられる点について整理し、規制法令、ガイドライン等のありかたについてとりまとめた。

1.保安対策の最新動向
保安11項目に関しては、坑井制御と坑井健全性に関するもの(BOP,セメンチング,モニタリング等坑井健全性,ケーシングデザイン関連)、機器、装置に関するもの(キャッピングスタックシステム,ROV,ダイナミックポジショニング,海底面に設置する装置・設備,浮体式施設及び移動式施設,着定式施設及び固定式施設関連)、作業に関するもの(緊急時計画関連)については、現状でも我が国の事業者は、海外での事業経験等をもとに最新の国際動向に則り事業を行っている。また機器、装置に関しては海外のコントラクターも多く、必然的に国際標準が取り入れられている。今後とも、事業者と規制当局とが常に最新動向を把握しておくことが必要である。今後ガイドラインの策定、現在の基準の改定等の余地があると考えられるものは以下のとおり。

(1) プラットフォーム等施設の撤去
廃棄にあたって、プラットフォーム,パイプライン等の撤去を原則とした国際的枠組みであるロンドン条約への適合については、「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律」を遵守することが必要であり、廃棄に関する許可申請に必要な条件等は示されている。米国では、規則の要件を満たす作業方法を逐条的に解説するガイダンスを規制機関BSEEが通達により発行しており、我が国でも残置を含み認められる廃棄方法の詳細等についての手引き、ガイドラインがあることが望ましい。
また、国連海洋法条約を受けてIMOが示した海洋施設廃棄指針(IMO89年ガイドライン)では、新規海洋設備・建造物について「廃止後に完全撤去できる設計及び建設とすること」としている。IMO89年ガイドラインに法的拘束力はなく、「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律」でも設計段階への言及はないが、今後新設されるプラットフォームのためには、設計段階でのガイドラインが明確であることが望ましい。

(2) 廃坑関連
英国と米国の廃坑規則を主に諸外国の廃坑規則を調査した。
細かな違いはあるものの大きな考え方の違いは見られなかった。重要な点は廃坑後も坑井の健全性を担保すること、油・ガス等の資源を保護し、それらを含む地層流体の地表または他層への移動を防ぐごと、そのためセメントプラグを複数適切な箇所に設置すること、また特に陸上坑井においては帯水層を保護することが大きな柱になっている。
本邦の廃坑措置基準は昭和61年に策定された。これは初期のAPIの廃坑ガイドラインを参考にして作成されたものと考えられ、適宜見直されているものの、基本的な考え方は昭和61年作成時のままに留まっており、深度、形状、種類、開発方法の坑井条件が多様化し、複雑化している現在は見直しがなされる余地があるものと考えられる。特に以下の点につき見直す必要があると考える。
前提として、事業者も規制当局も理解はしていてその通りに実施しているものの、必ずしも明確に記載されていないものとして、炭化水素の胚胎層の保護、帯水層の保護及び流体の移動の防止が記載されていない、また、廃坑後にも将来にわたって坑井の健全性を確保する必要がある事を明確に記載すべきである。特に、将来に当該坑井またはそのフィールド自体をCCSもしくはCCUS等で利用する可能性も考え、坑井の健全性の確保にはより注意を払う必要がある。
そのためには以下が必要である。
1)廃坑後にも坑井の健全性を担保するために、坑井の廃坑前に坑井の現状を確認し、事前に必要な補修を実施しておくこと、もしくは廃坑計画に補修を含んでおくことが不可欠である。
2)帯水層の保護のためにはその位置を確認しておく必要がある。
3)他の層への流体の移動を防ぐためには、流体を含む層を確実に隔離する必要がある。

現在の廃坑措置基準では、セメンチングが不十分な場合に最小径のCSGを抜きセメントで埋め立てることのみ求められているが、深度が深くなるにつれ地層圧力が高くなり地表部のセメンチングのみでは対処できず、結果として最小径のケーシングの抜管のみでは流体の移動や漏洩には対応できないため、隔離が不完全な層に対しては、その都度なるべく近い位置での対処が必要である。少なくとも対象層がある区間より一段浅く設置されているケーシングのシュー位置より深い部分において、アニュラス部分にバリヤーを設置すべく補修をする必要がある。
また、バリヤーの考え方を明確にすべきである。さらには、「元年度調査」で調査を実施した英国Oil & Gas UK発行の廃坑についてのガイドラインや、今年度調査を実施したテキサス州、ルイジアナ州の廃坑規制に示されているような、
・バックアッププラグの考え方
・水平坑井やMulti-Lateral坑井に対する廃坑の考え方
が無いことなどは、見直しする余地があるものと考えられる。
特に海洋坑井では、万が一廃坑後に漏洩が発生した場合その影響・被害は陸上坑井に比べ相対的に大きくなるため、一つのセメントプラグがFailした場合に備えるバックアップの考えも取り入れるべきであると考えられる。

(3) 自然災害の激甚化
API規格による風速、波高、潮流等についてのデータからは、特にメキシコ湾の西側海域で有義波高、最大波高等が増加していることが分かり、変化の要因について示す記載はないが、高緯度の海域に比べ低緯度の海域で、より海象条件に変化のあったことがうかがえる。
気象海象条件の変化や、それに対処するための諸外国の石油・天然ガス開発規制や関連規格の変更等の動向に注視が必要である。また、様々な施設の海洋への設置が進む中、石油・天然ガス開発以外の海洋施設関連への規制動向等についても同様に最新動向の把握が必要である。
我が国近海の気象海象条件も、中長期的に変動するものであるから、諸構造物(石油天然ガス設備等)を建設するためのガイドラインを国が作成し、設計に用いられる気象海象条件を示すことが有用である。
米国では、通常は100年期待値による許容応力ベースの設計を行うが、500年期待値~1,000年期待値の巨大台風に関しては、多少損傷は生じても、人命や環境に多大な影響を与えるような施設の倒壊や転倒等を防ぐために極限耐力を確保する、合理的な要求がなされている。我が国の耐震設計におけるLevel-1地震動とLevel-2地震動の区分と同様の設計思想であり、海洋施設の設計に100年暴風波を想定している鉱山保安法でも、今後の巨大台風等に対する考え方として参考となるものと考えられる。

1.2 鉱害防止対策

鉱害防止・環境保全対策に関しては、事業者は、環境コンサルタント会社に委託し、国内諸法規制(鉱業法、 鉱山保安法、 海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律、廃棄物の処理及び清掃に関する法律、 大気汚染防止法、 悪臭防止法、 消防法、水質汚濁防止法、 自然環境保全法、当該都道府県条例等)を調査、確認した上で、鉱害防止・環境保全対策調査を実施している。事業者自身の海外石油・天然ガス開発事業に関する知見と併せ、国際標準に遜色ない鉱害防止・環境保全対策が実施されているものと考えられる。
我が国の現況調査等の現状を英国事例(試探掘)と比較した結果、現況把握に係る現地調査の実施については生物生態系に関して実施有無の相違があり、我が国では生物生態系に関する現地調査は実施されていなかった。
この差異は、我が国の事業については比較的環境影響の小さい試探掘段階で終了する事業であることから、一概に取り組みが不十分であるとは言えないと考えられた。 但し、現地調査による生物情報の蓄積は今後のわが国油ガス田開発における鉱害防止対策に資すると考えられる。
諸外国事例において、現況把握における現地調査実施の有無や、影響要因ごとの予測手法には開発段階間の明確な差異が認められなかった。予測手法の考え方に関して、豪州事例では、英国事例と比較し、生産水の放出では負荷量算定のみではなく放出範囲等のモデリングを実施する点が異なっていた。これらの相違点については、水深や離岸距離、生物生態系とその脆弱性、過去の石油ガス開発等の周辺海域環境を加味し、判断されているものと思われる。

英国と我が国の環境管理制度を比較すると、英国では制度上管理されているものの、我が国では法制度上で管理されていない事項として以下の6点が確認された。
・海中騒音等による生物影響への配慮
・環境影響評価(EIA)
・海底攪乱の影響検討
・廃止方法の比較検討
・廃止計画
・廃止終了後の計画の遂行性に係る報告
いずれも運用面を見てみると、鉱業法・鉱山保安法に明示的な義務付けはされていないものの、「自主保安」の一環として十分に取り組まれており、実態としては英国を例としてみた開発先進諸外国と遜色のない鉱害防止・環境保全の取り組みがなされていると考えられた。
しかしながら、個別に法制度化し、国によるチェック体制を設けることで、国としての鉱害防止・環境保全への取り組み姿勢を明確に示すことができる。
なお、法制度化する場合には、自主保安の一環で実施されている現状と比べ、行政との調整や文書の作成、法制度の詳細度によっては現地調査の実施等のために事業者の時間的、財務的負担が大きくなることが考えられる。よって、法制度化をする際には、その必要性や明快な手順等を事前に事業者等を含む関係者と共通認識を築くために協議することが望ましいと考えられる。
具体的に法制度化を検討する場合、英国のように、環境影響評価を法的に要求することで、事業者に環境影響評価書の作成を義務付け、国が審査する体制が考えられる。海中騒音等による生物影響及び海底攪乱の影響検討については、許認可制度にまでしなくても、環境影響評価書の中で、その影響を評価し、対策案が検討されていれば、計画段階では十分な取り組みであると考えられる。
廃止計画と比較検討については、別々の許認可にせずに、代替案検討に係る記載を含む廃止計画の提出・承認制度を設けることも一案である。最後に、廃止終了後の報告は、廃止計画を制度化した場合のみ有効であり、計画通りに実際の廃止措置が適切に実施されたかを説明する文書による報告義務を課すことで、国として廃止措置の実態を把握できることになるものと考えられる。
なお、英国では2050年ネットゼロカーボン目標を達成するため、施設撤去に際してCCSについての検討義務が明文化されるなど石油天然ガス産業にネットゼロへの多くの義務がもたらされた。今後とも、2050年カーボンニュートラル/ネットゼロカーボン目標や、気温上昇を抑制するための必須の手段とされているCCSなど、環境課題に関する国際動向にも注視していく必要がある。

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